ことばが かえる よるの としょかん
山の てっぺんに、もう だれも 来なく なった 古い としょかんが あります。かなたは 月に 一ど、おじいさんの かわりに まどを 開けに 行きます。ほこりに 風を 通して あげると、本が よろこぶのだ そうです。
その 夜は 雨あがりで、ゆかが しっとりと 光って いました。かなたが まどを 開けた とき、開いた ままの 本の 上から、小さな 文字が ふわりと うかび ました。ほたるの ように、青白く またたいて います。
文字は 一つ、二つと ふえて、てんじょうの あたりを ゆっくり 回り はじめました。かなたが いきを のんで 見て いると、本だなの 上から、白い 鳥が おりて きました。まほろ、と 自分から 名のり ました。
「ことばはね、夜の あいだだけ、外の けしきを 見に 行くの」と まほろが 言いました。「朝の 光が さす 前に 帰って こられないと、本から きえて しまうのよ」
今夜は 雨で 道が 分からなく なって、四つの ことばが まだ 帰って いないのだ と まほろは 言いました。かなたは ランプに 火を ともして、まほろと いっしょに 外へ 出ました。
一つめは 村の やねの 上に いました。「あたたかい」と いう ことばが、ゆげの 中で うとうと して いたのです。かなたが 手のひらを 出すと、ふわりと のって きました。
二つめの「しずか」は、池の そこに しずんで いました。水の おもてに ランプを 近づけると、ゆっくり うかび あがって、かなたの そでに とまりました。
三つめの「まっしろ」は、きりの 中で 自分の 色に まぎれて いました。まほろが 羽を ひろげて 風を おこすと、きりが うすく なって、その ことばが 顔を 出しました。
けれども、四つめが どうしても 見つかりません。空の はしが うすい 水色に なりはじめて、まほろの 羽が ふるえました。「あと 少しで 朝が 来て しまうわ」
そのとき、かなたの うわぎの ポケットが、ぽっと あたたかく なりました。手を 入れると、小さな ことばが 一つ、まるく なって ねむって います。「おやすみ」。おじいさんが むかし、この としょかんで 読んで くれた ことばでした。
かなたは 四つの ことばを、そっと 本の ページに もどしました。文字は もとの ばしょに ならんで、しばらく あたたかく 光って から、しずかな 黒い インクに なりました。
「また 来て くれる?」と まほろが 聞きました。かなたは うなずいて、まどを 一つずつ しめました。山を 下りる 道で ふりかえると、としょかんの やねの 上で、白い 鳥が 羽を たたんだ ところでした。今夜も ことばたちは、ちゃんと 家に 帰りました。おやすみ。